2 ■忍【LV1,しょうにん,1N】 22/02/23(水)21:19:53 ID:Fh22
つづきからぼちぼち書いてくで
長文は猛虎弁やとくどいから標準語にするわ


出発の朝、7時

おれ
「アイベック! 起きなくて良いのか?」

アイベック
「まだ寝る…」

アイベックはいつも通り二度寝を始めた
2年前も含め、母親に起こされるまでにアイベックが自発的に起きるのを見たことがないからこれは多分仕方のないことだ

朝8時半

チョルポンおばさん
「アイベック! 起きなさい!」

そして9時

アイベックが遂に布団から脱出し、紅茶を飲んでから馬を探しに出かけた
…と、思ったらものの15分程で戻ってきて、焦ったようすでおれに手伝うよう言ってきた

アイベック
「Go! 馬が見つかった!
追い込むの手伝ってくれ!」

外へ出ると、馬の群れと、馬に乗ってそれを追いかけるアイベックの友達の姿があった
群れの中には、少し小柄で俊敏な見覚えのある馬がいた
アイベックの馬だ

どうやらアイベックの馬は昨日から他の馬たちと一緒に群となって放牧を楽しんでいたらしい
アイベックが柵に覆われた家畜用スペースへ走っていって扉を開ける

おれは馬たちが反対方向へ逃げないようアイベックの友達と協力する役割らしかったから、友達との位置関係を考えつつ馬を追い込む
結果、ほとんど時間をかけずにアイベックの馬を柵の中へ閉じ込める事ができた

他の馬たちは皆外へ逃されたけど、たぶんまた飼い主が捕まえる時は同じようなことをしないといけないはずだ

アイベックは、不機嫌そうに鳴いたり鼻を鳴らしたりするアイベックの馬にじりじりと近づいてノトと呼ばれる馬具(馬を引いたりどこかへ繋いだりするのに必要な物。乗る時にはこれに加えて、馬に咥えさせるジュゴンという物が必要)を顔に被せ、捕獲は完了した

※gifアニメ

https://i.imgur.com/42C8CcA.gif

3 名無しさん 22/02/23(水)21:20:27 ID:Fh22
ちなみに2年前もそうだったけど、アイベックの馬は気性が荒く扱いにくい馬だ
小さい頃から遊牧生活をしていて動物の扱いが巧いアイベックだからこそ扱えているんだろう

アイベック
「よぉし捕まえた!
早く蹄鉄を着けにないと!
Goの乗る馬もそこで待ってるはずだから行こう!」

そんな訳で、蹄鉄技師兼馬貸しのいる村の外れへ向かっていると、ビンと尖った耳に白い毛をしたメス犬が、アイベックの友達の馬に寄り添うように歩いてきた
尻尾には黒いラインが1本だけ入っている

no title

こいつは…!!

シロ…
の娘だ…!!

no title

5 名無しさん 22/02/23(水)21:21:03 ID:Fh22
シロというのは、むかしおれが一緒に野宿旅をしていた仲間の犬だ
簡単に説明すると狼のえさにされる恐れのあった状況だったので引き取り、里親を探しながら野宿旅をしていた

no title

最終的にはここトロク村で、おばさん一家が育ててくれることになった

実は、シロについてはトロク村に到着した時にこんなやりとりがあった

******************************************************

おれ
「おばさん、シロは、どこにいるの…?」

チョルポンおばさん
「実は…シロはついこの前死んでしまったの
病気じゃないから寿命だと思うわ

娘犬と孫犬は少し離れた所にある友達の家で大切に育てているから、アイベックが帰ってきたら一緒に会いに行けるわ」

おれ
「孫犬?
この前の写真だとまだ小さかったし、そもそもあの仔犬は雄犬じゃないの?」

チョルポンおばさん
「あぁ、違うわ、連絡してなかったけど、Goが日本へ帰ってすぐにシロは仔犬を産んだのよ
そのメスの仔犬と、仔犬が産んだ犬が、この前送った写真の犬たちよ」

チョルポンおばさんによると、シロは今年の8月ごろに死んでしまったらしい

元々海外の野良犬は平均寿命が2~5年程度だという話は耳にしていたから、出会った時点で成犬でその後は外で比較的自由に暮らしていたシロが、2年たった今も生きているというのはかなり幸運なことだと思っていた

シロに会えると思ってここまでやってきたのでにわかには信じられないけど、少し来るのが遅かった…らしい

7 名無しさん 22/02/23(水)21:21:19 ID:Fh22
トロク村の人々は基本的にロシア語が話せず、比較的ハイスペックでロシア語が話せるチョルポンおばさんですら、キルギス語と混ぜた片言のロシア語を使っていた

なので、「シロ 子ども」というボイスチャットと共に送られて来た写真を見て、話し言葉なので「シロと子どもよ」という意味だと勘違いしてしまっていた
実際は「シロの子どもたちよ」と送りたかったんだろうけど、複数形や所有格の語尾変化などはチョルポンおばさんは全く知らないようなので、そのようなボイスチャットになり誤解が起きてしまった

確かに毛並みは少し違っていたけど生え変わったものと思っていたし、顔は送られてきた画像だけでは判別がつかなかった
そもそもトロク村には白い犬が元々いなかったから、まさか帰国直後にシロが出産したとは思っていなかったので状況的に他ならぬシロだとしか思えなかった

おれ
「シロの娘と孫には…会えるんだな?」

チョルポンおばさん
「えぇ、大事に育てられているわ」

今はそこに縋るしかない

シロのことはできれば信じたくないしどうしようもなく残念だけど、子孫を残せていたというのは不幸中の幸いだ
この国の厳しい環境では生まれてすぐに死んでしまうことも少なくないだろうし、シロだけでなく子孫まで保護されているというなら、それはいい意味で想定外のことだ

******************************************************

さて、目の前の白い犬については、アイベックに確認するまでもない
シロの姿に瓜二つで、尻尾の特徴まで一致している
2年前にシロがトロク村に来た時には、白い犬はシロしかおらず同種の犬もいなかったから、この犬には間違いなくシロの遺伝子が入っている

no title

おれ
「アイベック、この子、友達が飼ってるのか?」

アイベック
「そうだよ!
シロの娘だよ!」

どうやら、生前シロは牧羊犬として有能だということが証明されていたから、出産の時は仔犬を欲しがる村人がたくさんいたらしい
お陰で現在、シロの娘はトロク村で暮らす人の家で大切に飼われているようだった



https://youtu.be/ob2E-ZU-Vcc

10 名無しさん 22/02/23(水)21:23:19 ID:Fh22
ちなみに、シロと瓜二つの娘犬だったけど、唯一違ったのは目の色だった
少し明るい茶色の獰猛そうな目をしていて、近寄ってくるオス犬に対しては噛みつきそうな勢いで吠えて追い払っていた
なんだかんだ若くて元気なオス犬に対してはされるがままになっていたシロに比べると、喧嘩っ早い性格なのかもしれない

さて、アイベックの馬に蹄鉄を着けている間、おれは相棒とする馬を2頭の中から選ぶ事になった

no title

白い馬と茶色い馬がいて、共に少し大きめの馬だった
以前ヘルスチェックをやりながら馬と1000km以上冒険しているから、馬の目利きはある程度できる

軽く跨ったり撫でたりしてみたところ、両方とも大人しく扱いやすい馬のようだったけど、筋肉の着き方と毛並みの良さ、そして腸が活発に動いていたということで、茶色い馬を相棒にすることになった
体の構造上吐くことができない馬にとって腸閉塞は最悪死にも至る一大事で、2年前は毎日聴診器で相棒の馬セキルの腸の蠕動運動の音を聞いていたからその経験が役立った

茶色い馬は足が1本だけ白かったから、アクウッ(白足)を言いやすくして「アクー」と呼ぶことにした

no title

さぁ、いよいよ出発だ!

11 名無しさん 22/02/23(水)21:24:56 ID:Fh22
一旦家へ戻って下着を重ね着して、雪山の厳しい寒さに備える

アイベック
「Go!
リュック貸してくれ!」

おれ
「え?
一個も持ってなかったっけ?

そもそもおれもリュックとバックパックしか無いけど」

アイベック
「うーん、分厚い服は馬にくくればいいけど…他にも色々ありそうだしバックパックも使おうよ」

おれ
「…というか、あれ?
昨日食料積んでいくって言ってたよな?

大量に卵茹でたじゃん!卵が無い!
あれどこいったの?」

アイベック
「いや昨日みんなで全部食べちゃったし」

アイベックもおれも村で手に入る最も栄養価が高い食材は卵だと思ったから、非常食としてパンとゆで卵を持っていこうという話になっていたはずだ

おれ
「なんで!?
残しとかないと持っていけないじゃん
せっかく昨日たくさん買ったのに!」

おれがそう言うと、アイベックはいやいや…と呆れたような表情になった

アイベック
「いや、昨日茹でた卵はGoがほとんど食べちゃってたし…」

おれ
「」

…そうだ!
そういえば昨日は大好物のゆで卵がたくさん目の前にあったから、無意識に7、8個食べてしまっていた気がする

おれ
「…
もっかい買って茹でよう!!」

12 名無しさん 22/02/23(水)21:25:08 ID:Fh22
まぁ今回は予定通りに行けば携行食は必要ないスケジュールなんだけど、プチ冒険とか関係なくゆで卵は食べたい
とにかく卵を買ってきて急いで茹でてからリュックに詰め込み、出発

no title

ちなみに今回はテントは不要だ
ここから目的地のソンクル湖までは48kmくらいだけど、ちょうど中間地点の辺りにコイチュビットおじさんの同級生、タランおじさんとグルジャンおばさんの家があるらしく、1日目、2日目共にそこに泊まる予定だからだ
2日目は朝早く出て昼過ぎにソンクル湖に到着して、少し休んでから下山してタランおじさんの家を目指すことになっている

非常時を考えて寝袋(1つしかないから実質アイベック用)だけでも持っていこうかとアイベックと相談したけど、結局パッキングの最中かさばるから止めておこうという話になったから持っていかないことになった

今回、非常時はおれがアイベックを守らないといけないだろう

村を出て丘を越え、少しでもショートカットできるよう車道から外れた荒れ地を馬で進んでいく

no title

2年前の馬旅でも散々世話になったけど、キルギスの山道では車道の他に「家畜用の道」というのが無数にあって、最適なものを選ぶことでより安全により早く進むことができる
分かりにくい場所もあるけど、遠くから見ると丘の傾斜に沿って幅40cmくらいの草が少ない筋(=多くの家畜が過去に通ってきた道)ができているから、慣れていればすぐに見つけられる

たぶん昨日断念したというアメリカ人たちは車道しか通っていなかったから進めなくなってしまったんだろうけど、車道と家畜用の道の中からより雪の少ない安全な道を選んでいけばきっとソンクル湖に辿り着けるはずだ

今回の相棒、アクーはとても良い馬のようで、出発してすぐにおれを乗り手と認めてくれたらしく指示をよく聞くようになった

地形に合わせて常歩(なみあし)と速歩(はやあし)と組み合わせて安全にゆっくり進む
常歩というのは2、3本の足を常に地面に着けた状態でゆっくりと進む歩き方のことで、速歩は全ての足を同時に一瞬地面から離しながら弾むように進む速歩きのことだ

ちなみに日本では速歩に対してはタイミングよく乗り手が立ったり座ったりするテクニックがあるようだけど、こちらでは見かけない

速歩は上下に小刻みに揺れるから乗り手の負担が一番大きい歩法ではあるけど、慣れれば1時間以上座ったままでも気にならなくなる
おれもアイベックも座ったまま時々「チョ」(進め)と指示を出して馬の速度をコントロールしていた

15 名無しさん 22/02/23(水)21:31:48 ID:Fh22
さて、10kmほど進んだ所で、小さな集落に行き当たった
家のそばの牧場から、馬に乗った青年がこちらへやって来る

アイベック
「友達だ」

その青年のそばには、耳がピンと尖っていて尻尾に黒いラインの入った白いオス犬がいる

シロ…よりは小柄だけど、凄くよく似ている

no title

おれ
「アイベック…?
あの犬は…?」

アイベック
「シロの息子だよ
この集落でも欲しいって人がいたから

シロが産んだ5匹の仔犬のうちの一匹だね」

なんと、シロは生前5匹もの犬を産んでいたらしく、その仔犬たちはトロク村やその近辺 (とはいえここは10kmも離れた集落だ) の村人たちの間で飼育されているようだった

…なんだ、シロの遺伝子はあちこちで引き継がれてるんじゃないか!

その、シロと同じ特徴を持ったオスの成犬を見て、おれは自然と笑みがこぼれた

この前シロが死んだと聞いた時は地獄に突き落とされたかのような辛い気分を味わったものだけど、このシロに似ている犬を見ているとその悲しい気持ちがふわっと消えていくような気がした

たった数年で死んでしまうというのは、いくら野良犬に近い暮らしだっったとはいえ人間の感覚ではあまりに短く思えるけど、その数年で孫世代まで繁栄することができたと言うなら、
今後もシロの子孫はトロク村の周りで生きるに違いないし、シロがおれと出会ってトロク村で暮らすことになったことには意味があったに違いない
今後、シロの子孫は大切に扱われることで幸せになれるだろうし、牧羊犬が手に入って村人たちはより快適に暮らすことができるだろう

シロはもういない
でも、シロの子孫がシロに代わってトロク村で繁栄している

もうそれだけで、おれは大満足だった



https://youtu.be/WdV_7cZ4Emg

20 名無しさん 22/02/23(水)21:46:44 ID:Fh22
さて、予定よりずいぶん早く、まだ明るい時間帯にタランおじさんの家に到着した
ちなみにタランおじさんはこの前葬式の時にトロク村に来ていたから面識がある

no title

タランおじさん
「おぉ! Go! アイベック!
元気か? よく来たな!」

タランおじさんは前に会った時と同じくニコニコしながら力強い調子で迎えてくれた
どうやらタランおじさんは歯がほとんどないようだから、もしかするとそれで語気が強くなっているのかもしれないけど、笑顔ではあるから歓迎してくれてはいるはずだ

ちなみにタランおじさんの家は電話が繋がらない地域だから事前連絡はできていなかったけど、それでもおじさんは「よく来た!」と家で紅茶を振る舞ってくれた

アイベック
「グルジャンおばさんは?」

タランおじさん
「グルジャンは今日は町に行ってるからおらん!
今日泊まってくのか? メシはパンと紅茶しかないぞ!」

アイベック
「あー…
それは…良くないな…」

おれ
「アイベック、トロク村からここまで17kmしか無いから明日ソンクル湖まで行って帰ってくるなら60kmくらい移動しないといけないぞ
もう少し進んでおいた方が良いんじゃないか?」

アイベック
「あー、そうなんだ
タランおじさんの家からソンクル湖まで10kmくらいだと思ってた
まあ明日は朝5時に起きて出発するから大丈夫だよ

でも、そうだね、ここから馬で30分くらいのところに俺の友達がいるからそこに行こうか」

no title

21 名無しさん 22/02/23(水)21:47:00 ID:Fh22
タランおじさん
「気をつけろよ
明日は夜大雪かもしれんからな!」

という訳でアイベックの友達のビリンベックの家へ…行ったものの、ビリンベックは町でウォッカを飲み過ぎで潰れてしまっているらしく、結局家にいたビリンベックの親戚の方々に迎えられ、そのまま家で寝ることになった

ちなみにアイベック主導で布団を敷いたところ、何故か2人の布団をぴったりくっつけてその境目が開くようになっている布団が完成した

no title

…いや、これ夫婦用の敷き方なんじゃ…
思ったけど言わないことにした

ちなみにキルギスでは、少なくとも男は服を着たまま寝るのは不潔だと考えられているので、パン一で寝るのがデフォルトだ

寒い時期でもそうだから、おれとアイベックは服を脱ぎ、お互いの体温が伝わるくらい近い距離で眠りに就くことになった…

(2人ともノンケやから何も起きなかったで!)

22 名無しさん 22/02/23(水)22:03:09 ID:Fh22
翌日

朝5時
アイベックのスマホのアラームが鳴り響く

おれ
「アイベック、起きなくて良いのか?
間に合わなくなるぞ」

アイベック
「ぁ…
あと1じかん…」

ここで無理に起こすとキレるのは知っているからどうしようもない
まぁ、距離的にあと1時間くらいならギリギリ大丈夫だろう

そして6時

15分毎に鳴るスヌーズを全て止めつつ眠り続けるアイベックに声をかける

おれ
「アイベック、起きよう」

アイベック
「ぅー…
あと3時間くらい…」

おれ
「いや起きろよ」

さすがに間に合わなくなるからアイベックの布団をめくることにした

アイベック
「なぁーにするんだよ!」

アイベックが半ば寝ぼけながら抗議をする

いや5時に目覚ましかけたのアイベックだろ…
起きろや…

…という訳で、アイベックを半ば無理やり起こし、馬たちに馬具を着けていつでも出発できる状態にしてから紅茶を飲む

no title

23 名無しさん 22/02/23(水)22:03:37 ID:Fh22
居間には、まだ酔っている状態のビリンベックが帰ってきていた
本人曰く23歳らしいけど、かなり童顔だ
もしかするとアイベックと同じくらいの年齢なのかもしれない

ビリンベック
「日本人、ごぉぉぉ!!
まだ独身なのかぁ?
早く結婚しないとなぁ!?」

おれ
「まだする気ないなぁ
ビリンベックは独身?
いつ結婚するの?」

ビリンベック
「独身だし彼女もいないけど結婚するー!

今日っ!!」

おれ
「おめでとう笑」

完全に酔ってるからだろうけど、誘拐婚だとあり得る話だから、冗談でもヒヤッとする発言だ


その後すぐにビリンベックは寝てしまったから、おれとアイベックは荷物をまとめてすぐに出発することにした

no title

出発してすぐにところどころに雪が見られるようになり、車道が雪で埋まっている所もあった
標高はおよそ2300m

動物たちもこの辺りが高度的に限界のようでヤクの群れを見て以来は動物を全く見かけなくなった
できるだけ雪の少ない家畜用の道を選んで馬と息を合わせながら進んでいく

no title

24 名無しさん 22/02/23(水)22:06:50 ID:Fh22
途中、崖のようになっているところでは馬から降りて、アイベックと一緒に手綱を引きながらゆっくりと進んだ
崖っぷちで足場は雪に覆われているし、左側の崖下へ落ちないように気をつけつつ右上に積もった大量の雪にも注意しないといけない

no title

アイベック
「Go、できるだけ音を立てないようにね
雪崩になるかもしれないから」

アイベックは声を殺しながらそう言った

おれ
「そうだな…
こんな所で雪崩に遭ったらぜったい死ぬからな」

アイベック
「まぁアッラー(神)がいれば大丈夫だから、俺がGoの分までお祈りしておくよ
『アッラーの他に神は無く、ムハンマドはアッラーの使徒』」

そう言ってアイベックはモスクなどでお祈りをする際の言葉を呟き始めた

おれ
「ありがとう、助かるよ
きっと大丈夫だよ、アッラーが望むなら」

こうして雪だらけの崖っぷちを越え、動物たちの掘った穴が雪で覆われてトラップ化している雪原を越え、昼過ぎ、おれとアイベックはソンクル湖へ到着することができた

no title

25 名無しさん 22/02/23(水)22:14:25 ID:Fh22
標高3016m

ソンクル湖の周りだけは雪がなく、2年前と同じように透明度の高い水色の綺麗な湖だった

no title

おれ
「うぉぉぉ!!
よっし!

ソンクル湖だ!

安全に下山しないといけないから30分くらいしかいられないだろうけど、最高だな!

ほんと綺麗だなぁ…アイべッ……ク…?」

ソンクル湖に感動しながらアイベックの方へ振り向くと、そこには明らかに体調が悪そうで小刻みに震えるアイベックの姿があった
唇は青く、顔色も土っぽくて明らかに異常だ

アイベック
「そう…だね…」

おれ
「アイベック、どうした!?」

アイベック
「大丈夫…
だけど、少し寝ないと…
昨日2時間しか寝て無くて、もう限界…」

アイベックはそう言って馬を降り、ソンクル湖の湖畔で横になって動かなくなった

アイベック曰く、昨日はほとんど寝れなかったらしい
昨日の夜中いびきをかいていたから2時間ってことはないだろうけど、少なくとも今現在体調が悪いのは間違いなさそうだ

とはいえ、今からここで1~2時間ほど寝てしまうと日没までに人里へ戻れなくなる
ここから20kmに家は無く、雪山で野宿することになった場合、最悪死ぬ可能性も出てくる

アイベックが寝坊なのは毎日のことだったから気付けなかった

no title

28 名無しさん 22/02/23(水)22:47:14 ID:9voH
こんな標高高いとこにこんな湖あるんか
めっちゃ綺麗わね

29 名無しさん 22/02/23(水)23:01:54 ID:Fh22
>>28
せやねん、めちゃくちゃ綺麗なんや

no title

no title

30 名無しさん 22/02/23(水)23:04:16 ID:Fh22
ちょっとソンクル湖近辺の写真貼ってくわ

no title

no title

31 名無しさん 22/02/23(水)23:06:27 ID:Fh22
no title

no title

32 名無しさん 22/02/23(水)23:07:04 ID:Fh22
つづき

今動けるおれが何とかしないといけない!

最悪の場合(日没までに下山できないこと)を考えた時、水はあるし、メタルマッチ(マグネシウム製の高性能な火打ち石のようなもの)があるから火も起こせるし食料も多少はある…となると、足りないのは寒さを凌げる安全な家だ

実は、さっきソンクル湖へ来た時から少し離れたところに「ここにあるはずの無いもの」を見かけていて気になっていた

ボウズイ、円形の移動式住居だ

no title

通常ボウズイはシーズンが終わるとバラして車で家まで運ぶはずだから、人も動物もいないこんな場所にあるのは明らかにおかしい
誰かが住んでいる可能性は十分にあるし、寝床や食料、情報などで力を貸してくれるかもしれない

おれ
「アイベック、おれは今からあのボウズイに行こうと思うけど、誰が住んでいるか分かるか?」

アイベック
「分からない…
今は誰もいないはずなのに…おかしいね

良くない奴らが住んでるのかも…
行くなら、本当に気をつけて」

おれ
「分かった!」

アイベックの言う通り、小さい頃からソンクル湖で何度も放牧を手伝っていたアイベックが住人を特定できないというのはかなり不自然だ
ならず者が住んでいる可能性は十分にあるし、そう簡単に協力してくれないかもしれない
2年前に廃車両で暮らすならず者に一時監禁されたのと同様に、そう簡単に戻れなくなるリスクもある

…とはいっても、倒れてしまっているアイベックを前に、おれができることはこの位しか無く、現状最善の選択ではありそうだ
面倒なことになった時に馬を掴まれると不利になるから、おれは馬をアイベックの傍に繋いだままにして、徒歩でボウズイへと向かうことにした

おれは、改めて気を引き締めて緊張しつつ、一歩一歩、その不気味なボウズイへと歩いていった



https://youtu.be/WtWcqRZo0eE

35 名無しさん 22/02/23(水)23:54:30 ID:Fh22
さて、ボウズイにたどり着いたものの、そこには誰もいなかった

no title

少し離れているところにあるボウズイも訪ねてみたがそこももぬけの殻で、どうやら撤収せずそのまま放置されているボウズイのようだった

仕方なくアイベックの元へ戻ると、アイベックが少しだけ元気になったようで、体を起こして馬に乗ろうとしているところだった

アイベック
「Go、少し良くなったよ。行こう」

アイベックに促され、俺もアクーにまたがって出発

正直なところ、ここから帰っても日没までにふもとまで戻るのは無理だろう…と思っていたけど、
馬たちが全力疾走で何十分も走ってくれるという奇跡が起きたので、休憩を挟みながらすごい速さで雪原を越え丘を越え、ふもとへ向かうことができた

no title

どうやら馬たちもこのままではまずい(寒い)というのが分かっているようで、さらに2頭いたおかげで互いが互いを追いかけるような形でどんどんスピードを上げて疾走してくれた

アイベックはかなり馬に乗りなれているので、馬に揺られながら時折目を瞑って休んでいるようだった



https://youtu.be/x3vvu6jcJMA

36 名無しさん 22/02/23(水)23:54:43 ID:Fh22
さて、その後も馬たちは好調に走ってくれて、夕方、今朝出発した家へ帰還することができた

ここで泊まることも可能だったけどまだ少し明るかったので、アイベックと相談の上でさらに下山してタランおじさんの家を目指すことになった

そして、日没直前に到着し、グルジャンおばさんの美味しいご飯をいただき、その次の日、おれとアイベックは無事にトロク村に戻ることができた

no title



https://youtu.be/tmKX6UdOHV8

37 名無しさん 22/02/24(木)00:49:04 ID:h3AZ
次は、誘拐婚についての後日談を話そうと思う

昔おれが犬や羊たちと野宿旅をしていた時に、誘拐されてまだ日の浅い花嫁の方と会うことがあった
誘拐された女性はその男性と結婚しなければ、汚れた存在として村八分にされてしまうので、その花嫁も泣く泣く男との結婚を受け入れていた

今回はその家にもう一度行って、その後どうなったかを確認するのが目的だ

ヒッチハイクをして、見覚えのある家のところまでたどり着き、門を叩く

その花嫁と結婚した新郎、オロズベックのお父さんが出てきて招き入れてくれた

お父さん
「おぉ!
あの時の日本人じゃないか!!
よく来たな、さあ入れ!」

キルギスでは突然人が訪ねてくることは珍しくないこともあり、お父さんやその奥さんはおれに紅茶やサラダを振る舞ってくれた

no title

さて、オロズベックについてだが、どうやら今は首都ビシュケクに住んでいてここにはいないらしい

そして、家の中にはオロズベックの弟バ○ットと、その隣には若く美しいキルギス人の女性がいた

…そう、彼女もまた、誘拐婚によりこの家に連れて来られた女性だった
彼女は3ヶ月前に来たばかりで、それまでは教師として働いていたらしい

オロズベックは四人兄弟で、独身の弟はあと二人いる

家の中には誘拐してきた花嫁を説得するときに使用するコショゴというカーテンのような布が常設されていた

異邦人のおれにはどうすることもできないけど、闇は深い



https://youtu.be/RLVnpl1fdjA

38 名無しさん 22/02/24(木)00:50:08 ID:h3AZ
さて、次は最後の仲間、白羊のサナを探しに行くことにした

サナは現在トロク村ではなくタランおじさんのところにいるようだ
タランおじさんは繁殖も兼ねた育て屋のような仕事をしていて、5月から11月までコイチュビットおじさんの羊を預かっているらしい

ヒッチハイクでタランおじさんの家へ

到着してグルジャンおばさんに状況を聞くと、タランおじさんは放牧をしに出掛けているらしく、夕方まで帰って来ないようだった

近くでやっていた建築系の仕事を手伝おうかと思ったけど、悪い奴がいてそいつがしつこく「白羊は死んだんだよ笑」と根拠なく言ってきて面倒だったので、手伝うのを止めて家へ戻ることに
後で知ったことだけど、その悪い奴はタランおじさんの同級生で、酒に酔って喧嘩したときにタランおじさんを殴りつけて総入れ歯にしたらしい
まだ46歳なのに、タランおじさんはかなり可哀相だ


さて、まだまだタランおじさんは帰って来ないので、羊たちの背中のマークを教えてもらい一人で探しに行くことにした
羊の気持ちになって歩きつつ新しい糞を追いかける

発見

近くで見ないと確定できないけど、サナっぽい羊もいた

no title

しかし、羊たちはかなり警戒心が強いようで、近寄ることができなかったのでひとまず家へ戻ることにした

まだ昼過ぎながら家ではタランおじさんやその友達たちが休憩がてら宴会を始めていたので、ウォッカをいただきつつタランおじさんから羊たちの話を聞いてみる

タランおじさんが現在預かっているのは、全部で260匹の大きな群れらしい

あと2時間ほどでタランおじさんも探しに行くとのことだったので、少し待ってから、酔って足元のおぼつかないタランおじさんと一緒に捜索開始

群れ自体はすぐに見つかり、家の羊スペースへ誘導

no title

羊たちを柵の内側に入れてから、サナを探す
雪が降り始めたのでかなり寒い

しかし、そこにはサナの姿はなかった

39 名無しさん 22/02/24(木)00:50:42 ID:h3AZ
どうやら20匹ほど羊が足りず240匹しかいないらしい

近隣の羊飼いの方が「今日は別の群れ少しが混ざっている」と言っていたらしいので、そこに残りの羊たちがいるんじゃないかと考え探しに行く

雪の中、タランおじさんと馬に二人乗りして急いで羊飼いの家へ
もう日没時間だから、早くしないとすぐに真っ暗になってしまう

そして…!

no title

おれは、サナに会うことができた!!!

no title

結局、おれが一人で探しに行った時に見つけた群れの中にサナはいたようだ
背中に緑色の点が塗られている

今日の昼の時点で別の群れに紛れてしまっていたんだろう
羊飼いの方も別の群れだと認識していたようだし殺されることは無いだろうけど、それにしてもヒヤヒヤした

今日はもう暗いので、サナは明日元の群れへ戻されるらしい

羊飼いの方とまた飲み直すようすのタランおじさんはその場に残り、おれはタランおじさんの馬で家へ

家へ入ると、犬の赤ちゃんが玄関でクンクンと甲高く鳴いていた
この子は昼間は外にいたけど、これだけ寒いと死んでしまうかもしれないから屋内に入れたらしい
おそらく牛や羊を追い立てる為の牧羊犬として育てる予定みたいだ

もう真っ暗で車は皆無だったからヒッチハイクはできず、翌日トロク村へ帰ることになり、タランおじさんの家で皆でウォッカをイッキして就寝
多分、昼間の悪い奴主導でおれを潰そうとしてたらしくて、何故かおれだけ量が多かったけど、ウォッカ瓶が2本空いて無くなったので強制的に終了
小さいグラスになみなみと注がれたウォッカを3分程のインターバルでほぼ連続で5杯イッキしたけど、このぐらいでは潰れない体質で良かった

そういえば2年前と違って最近はトロク村でも知り合いが増え、毎日のようにあちこちの家でウォッカを何杯もイッキしている
コイチュビットおじさんを始めとするトロク村の皆により深く受け入れられたということだろうから、凄く嬉しい



https://youtu.be/wiomZDoRwGI

41 名無しさん 22/02/24(木)01:17:53 ID:h3AZ
キルギス滞在最終日は、前々から仲良くしていたナルギザという名の大学生の女の子とデートをすることになった

ショッピングモールにいってお土産のハチミツを選んだり、バスで急な滝があるスポットまで行ってバンジージャンプをしたりした

no title

「次はいつ来るの?」というナルギザの問いに「うーん、できるだけ早く来たいけど、どうだろ…」と答えると、「そういうことが聞きたいんじゃない」と言われてしまった

薄々わかるけど、なかなか返答が難しい質問だ

no title

夜、ナルギザの家に戻るとパーティが開かれていたので、色々な質問に答えたり、ウォッカをイッキしたりした

最後はやはり親友のアイダールと寝たかったので、ナルギザとはこれでお別れだ
別れ際、ナルギザは両手を広げるポーズをしてきたので、長めのハグをして、タクシーでアイダールの家へ

そして次の日、おれは飛行機に乗り、日本へと帰って行った

…さあ、日本へ帰ったらすぐにまた飛行機に乗って、チュニジアへ向かわないといけない

サハラ砂漠とアラブ人、ラクダたちを相手に、自分の存在や人生に決着をつける冒険を、始めるんだ!!

【おわり】



https://youtu.be/PyD8h1x8bO4

42 名無しさん 22/02/24(木)01:18:23 ID:h3AZ
今回の話はここまでや!

日記を元に書いとるし、いまも北欧で次の冒険の直前準備しとるからかなり雑な文章ですまんけど、雰囲気だけでも感じ取ってもらえれば…

なんか質問とか感想とかあったら、書き込んでくれると嬉しいで!

43 名無しさん 22/02/24(木)01:20:46 ID:hijU
ゴビ砂漠行ったことある?

45 名無しさん 22/02/24(木)01:50:39 ID:h3AZ
>>43
いや、行った事はないなぁ

中国横断鉄道で通過したことなら何度かあるけど…

47 名無しさん 22/02/26(土)10:38:54 ID:0CHt
1つめから見たわ
面白かったで




引用元 https://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1645618722
【画像】列車で中国横断して中央アジアまで行ってきたで!3のつづき